バレンタインSS 「バレンタインのひとり言」 
 
 2月14日――、
 世間では今日はバレンタインディだ。
 わたしも女の子同士でチョコの交換をしたりするけど、本命としてあげたい人はいない。
「……」
 嘘。
 本当はちゃんといる。
 でも、あげたくてもあげられない。
 その人とは――南雲さんとは、年に2回のイベントでしか会えないし、住所も知らない。渡すことも送ることもできないのだ。
「うーん……」
 わたしはチョコの箱を机の上に立て、それを指で支えてくるくると回した。
 これは南雲さんのために買ったチョコ。
 渡せないことはわかっていたけど、買って待っていたらそんな機会がくるような気がして、売り場で素敵なのを見つけたときに買っておいた。
 結局、そんな機会は訪れなかったけど。
「どうしよっかなぁ……」
 わたしは箱を回しながら考える。
 くるくる
 くるくる
「うん、決めたっ。次の春ドリのときに渡そうっ」
 これは本命とかじゃなくて、日頃お世話になっているお礼として渡すのだから、いつでもいいはずだ。うん。
 そうと決まれば、これは冷蔵庫に入れておこう。わたしは立ち上がった。
 いつか南雲さんともっと親しくなって、チョコもちゃんとバレンタインディに渡せる日がくればいいなと思う。
 部屋を出ようとしたとき、ふと姿見が目に入った。
 瞬間、魔が差した。
 わたしは思い立って姿見の前に、全身を映すように立ってみた。チョコの箱は胸の前で、両手で持つ。
 そして――、
「南雲さん、好きです。わたしの気持ち、受け取ってくださいっ」
 それを突き出した。
 ……。
 ……。
 ……。
 わたしは耐え切れなくなって、ベッドへと倒れこんだ。足をバタつかせる。
「〜〜〜っ」
 いったい何の予行演習だろう。なんかすっごい死ねる。破壊力抜群。自分に大ダメージ。どうせなら南雲さんを撃墜してみせろと。
 ひとしきり悶えてから、仰向けに寝返りを打った。
「はぁ……」
 見慣れた天井を見つつ、ため息をひとつ。
 道のりは険しいな、と思った。
 
 
 2009年2月14日公開web拍手にて公開/同年3月4日通常公開

 

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