図書室には怖い番人がいる

4.予約


 今日も今日とて女子高生はおしゃべりに華を咲かせる。
 赤ちゃんは泣くのが仕事。
 ならば、女子高生はおしゃべりするのが仕事……とは誰も言ってくれないに違いない。だが、あたかもそうであるかのように、女子高生とおしゃべりは切っても切れない縁にあるのだ。
 
 涼月たちの本日の話題は、やはりと言うべきか、『図書室の怖い番人』についてだった。
「あの先輩ってさ、けっこういいとこのボンボンなんでしょ?」
 年上をつかまえてボンボン呼ばわりはないだろうに、と涼月は思う。尤も、年下ならいいというわけではないが。
「へぇ、そうなんだ」
「え、あたしは逆に親がアレな職業だって聞いたけど?」
 アレって何だ? まぁ、そこは明言するほうが無粋と言うものか。
「でも、お金持ってるって話だよね?」
「まー、それがまっとうなお金とはかぎらないわけだけどね。悪いやつほど儲けるのが世の常だし」
「こわっ」
 と言いつつもケラケラと笑っている。
 
 さて、涼月はというと、心の中でツッコミは入れているものの、いまいち話題に乗り切れないでいた。たぶん彼のことを多少なりとも知ってしまったからだろう。中学時代の噂がすべて誤解であることも聞いた。だから、無責任な噂話に参加する気になれないのだ。
 
「成績ってどうなのかな?」
 今度は学業の話らしい。
「成績悪くて留年とかやめてほしいなぁ」
「ねー。同じクラスとか最悪じゃない? ダブりなんてどう扱っていいかわかんないし」
「そこは、ほら、成績悪くても力で解決でしょ?」
「力って、お金の力?」
「いや、案外腕力かもよー?」
 面白おかしく話を広げていく。
「でもさ――」
 そこでようやく涼月も口をはさんだ。
「今は図書室でおとなしくしてるわけじゃない?」
「わかってないなぁ、涼月は。そういうのがキレて自転車投げつけたりするわけよ」
「あるある」
 また笑いが巻き起こる。
 どうにか話を逸らそうとしたのだが、どうも逆効果だったようだ。
「知ってる? その図書室に女の子つれ込んでるって話」
「そうなの!?」
 話はさらなる盛り上がりを見せる。
 よくもまぁ、いろんな話が出てくるな、あのセンパイは――と、むしろ話題の絶えない彼に感心しつつ、涼月はため息をひとつ。
「もうやめたら? だんだん陰口みたくなってるよ」
 結局、ストレートにやめさせることにした。
 すると、友人三人はきょとんとした顔を見せる。
「どうしたの、涼月? 今日、なんかノリ悪くない?」
「え? いや、だって、根拠もないのにそんなこと言うのは……」
「えー、自分だってこの前まで一緒になって言ってたじゃん」
「……」
 その言葉はなにげないひと言だったに違いない。だが、図らずも涼月の心に鋭く突き刺さった。
 何も言い返せない。
 確かにそうだ。ついこの間までその根拠のない噂話を楽しんでいたのは、ほかならぬ涼月自身ではないか。
「あ、そう言えばさ、駅前に――」
 唐突に話が変わった。
 わたしたちの話なんていつもこんなものか、と内心呆れる。
 でも、遠くから好き勝手言っているだけみたいなおしゃべりをどうにもできなかった悔しさは、確かに涼月の中に残った。
 
 
                  §§§
 
 
 その日の放課後、
「涼月、今日はどうするー?」
 いつものお誘いの声。
 だが、涼月はそれを聞こえなかったことにして、さっさと教室を出た。今日はそんな気になれなかったし、どうしても行きたい場所があった。
 行きたい場所。
 いや、行かなくてはいけない場所、だろうか。
 それはもちろん、図書室だった。
 足早に廊下を往く。
 あまり早く行っても彼がいないかも、とは思わない。どうせあのセンパイのことだから、すでに図書室にいる。そう信じて疑わなかった。
 そして、案の定、彼はそこにいた。
 いつもの席で、いつもの傍若無人な姿勢で本を読んでいる。
 涼月は彼の姿を認めると、読み取り機(カードリーダ)にパスケースごと生徒証を叩きつけ、入館ゲートを通過した。
 つかつかと……と言っても図書室の床には絨毯が敷いてあるので足音はしないが、それでも歩調も荒く彼に歩み寄る。そうしてから、
 バンッ
 と、両手で机を叩いた。
 
「どうして黙ってるんですか!?」
 
 涼月は力いっぱい叫ぶが、しかし、彼は本に視線を落としたまま顔も上げない。挙げ句、ただひと言。
「……図書室では静かに」
「〜〜〜ッ!?」
 その態度がよけいに涼月の怒りに火をつけた。
「むりです! センパイみたいに黙ってられません」
 ようやく彼が顔を上げた。
「話が見えないな」
「噂のことです。どうして黙ってるんですか!?」
「……」
 彼はすぐには答えない。
 やがてため息をひとつ吐くと、ぱたん、と本を閉じた。
「場所を変えよう。幸いまだ人がいないからいいようなものの、そろそろ誰かくるだろう」
 そう言って彼は立ち上がる。
 いったいどこに行くつもりなのかと、その動きを目で追っていると、彼はカウンタの中に入っていった。今まで気にしたことがなかったが、カウンタの後ろにはスライド式のドアがあった。
「こっちだ」
 どうやらそこで話そうということらしい。
 涼月は彼の後を追い、続いてその中に入った。
 
 中は、中央に大きなテーブルがひとつ。その上にはたくさんの本が積まれていた。新しいものもあれば、古いものもある。壁際には端末とプリンタが設置されていた。
 そして、
 
「悪い。ちょっと席を外してくれないか?」
 
 その端末に向かう女子生徒がひとり。
 彼女が振り返る。
 
(うわ……)
 
 涼月ですら目を見張るような大人っぽい美人だった。その艶やかな黒髪を見て、「やっぱ黒もいいかも……」と涼月は少し思い直した。
 彼女は涼月と彼を交互に見ると、
「装備、急ぐのよ?」
 その優等生然とした落ち着いた声の中に、少しだけ非難を込めて発音した。
「後で手伝うさ」
「……わかった」
 彼女は不承不承、首を縦に振った。
「三十分したら戻ってくるから、それまでよ」
 そう言うと、涼月の横をすり抜け、黒髪をなびかせながら部屋を出ていく。
「えっと……今のは?」
「我が図書委員の委員長様だよ。……座って」
「あ、はい……」
 涼月は言われた通り、テーブルを囲むように置かれていたイスのひとつに腰を下ろした。端末のほうはキャスタ付きのオフィスチェアだが、こちらはただのパイプ椅子だ。
 涼月はきょろきょろと室内を見回す。
「ここでは主に資料の装備をしてる」
 同じようにパイプ椅子を引いて座った彼が、まるで涼月の頭の中を見透かしたようにおしえてくれる。
「装備?」
「そう。資料に登録番号や請求記号を付与して、ラベルを貼って、データベースに登録する作業。あぁ、タトルテープも入れるな。ここではそれをやってる」
 いちおうその手に関して知識だけはあったので、涼月は「なるほど」と納得した。
 先ほどの彼女の言葉によると、その装備も急ぎの仕事らしいのだが、こんなことをしていていいのだろうか? 押しかけてきたのは自分なのに、少し心配になる。
「で、いったい僕に何が言いたい?」
 だが、その心配をよそに、彼は先を促すように切り出してきた。
 涼月は意を決して口を開いた。
「噂のことです。どうして何も言わないんですか?」
「それは僕の問題だ。君が気にすることじゃないな」
 彼の返事は実にさっぱりしたものだった。まるで他人事だ。
「でも、みんな好き勝手言って、もう陰口ですよ。なんで平気なんですか?」
「平気だとか平気じゃないとか以前に、気にしてないからね」
「わたしが気にしますっ」
 勢いでそう言い放っておいて涼月は、そんな自分にはっとした。
 彼が苦笑し、涼月は顔を赤くする。
「そもそも、だ――確かに僕は君に中学時代の噂は誤解だと話したが、高校に入ってからの話は本当かもしれないだろ?」
「……」
 確かにそうかも、と思う涼月。実際、先生を殴ったのは本当のことだった。今日聞いたばかりの、図書室に女の子を連れ込んでいるという噂も、きっとさっきまでここにいた女子生徒の存在が発端となっているのだろう。
 ならば、すごい不良だとか女の子をとっかえひっかえしてるなんて話だって、真実とまでいかないにしても、噂になるだけの元ネタがあるのかもしれない。
(彼女をコロコロ変えるとか?)
 そう考えて、涼月はちょっとむっとした。
 
「……本当なんですか?」
「いいや」
 
 彼はおどけたように肩をすくめてみせた。
「怒りますよ」
「もう怒ってるだろ」
 目を三角にする涼月と、いたずらが成功した悪ガキみたいに笑う彼。
「でもさ、君だってその噂話に参加してたんだろう?」
「……」
「……」
 彼のその指摘に、涼月はうつむいてしまった。昼間の友人の言葉同様、痛い指摘だった。膝の上に載せた両の拳を強く握りしめる。
「……ました」
「うん?」
「言ってましたっ。センパイのこと何も知らないのに、好き勝手悪口言ってました!」
 気がつけば、涼月は泣き出していた。泣きながら、でも、怒ったように語調荒く答える。彼にはまるで逆ギレのように映ったことだろう。
「……悪い。責めるつもりはなかったんだ」
「わたしだって責められてるつもりありません! ただ、自分に腹が立つんです!」
 そうだ。腹が立つのは自分にだ。面白おかしく想像を膨らませて楽しんでいた自分。友達が新しく持ってきた噂話に、興味津々で耳を傾けていた自分――。あんな聞くに耐えないおしゃべりを、涼月はたびたびしていたのだ。
 実際に会った彼はぜんぜんそんな人ではなくて、少し人を喰ったようなところはあるものの、気さくないい先輩だった。図書室の使い方を教えてくれたし、今もこうして向かい合って自分の話に耳を傾けてくれている。
 彼は「腹が立つんなら、泣くんじゃなくて怒れよ……」と困ったように頭を掻いた。
「だったら、これまで通りそうしとけ」
「できません」
「ノリが悪いって言われるぞ」
「もう言われましたっ」
 相変わらずの泣き顔のまま、涼月は言葉をぶつける。
「何やってんだか……」
 彼は呆れて天を仰いだ。
 それから、意図的にそうしたのか、砕けた調子で言葉を継ぐ。
「お前ね、そういうのは話あわせて楽しんどけばいいんだよ」
「センパイはそれでいいんですか?」
「いいも悪いも、噂なんてそんなものだろ?」
「そんなもの?」
「そう。噂は『システム』だよ。聞きたいやつがいて話したいやつがいて、それで成り立っている『システム』。聞きたいやつは、少しくらい誇張があっても面白い話が聞きたい。話したいやつは、多少脚色してでも面白い話を話したい。共通してるのは、事実なんてどうでもよくて、楽しければそれでいいという点だな」
「……」
 なんて醜悪なことだろう。
 だが、実際その通りだ。事実確認の必要性を説いたところで、さっきの涼月のように『ノリが悪い』、『空気が読めてない』ということになるのだろう。そして、もっと遡れば、自分もその無責任な噂話をする側だったのだ。
 知っていた。涼月とておしゃべり好きの女子高生だ。噂なんてその場その場で楽しければいいくらいの気持ちだった。誰かからもっと盛り上がれる話題が出てきたら、その瞬間その話は終わり。下手をすれば、そんな話をしていたことすら忘れてしまうかもしれない。
「でも、それじゃセンパイが……」
「僕はちゃんと僕のことをわかってくれる人間がいてくれるならそれでいい」
 彼はそう言い切る。
「これでも案外多いんだぜ? 少なくとも、一年、二年と、僕と同じクラスになった連中はわかってくれてる」
「……」
 その中にさっきの美人も含まれているのだろうか、と涼月は考えた。
 
「涼月はさ、どっちなんだろうな」
 
「え? わ、わたし?」
 急に答えを求められ、涼月は視線を彷徨わせる。と、目に入ってきたのは、端末の前にあるオフィスチェアだった。さっきまで彼女が座っていたイスだ。
「わたしは……まぁ、悪い人じゃないと思ってますよ、センパイのこと」
「なら、またひとり、僕をわかってくれるやつが増えたわけだ」
 そう言って彼は満足げに笑う。
 その笑顔を見て、涼月はまたむっとした。人の気も知らないで、と思う。
「センパイって、なーんか調子いいですよね」
 半眼で彼を見据えながら言う。
「そうか?」
「しかも、あれだけ陰口を叩かれて平気とか」
 今さらながら心配して損した気分になる涼月だった。
「噂は噂でしかないし、陰口はいずれ自分に跳ね返ってくる。言っただろ? 平気・平気じゃないじゃなくて、そもそも気にしてないんだよ。だから、涼月もいちいち気にするな」
「まぁ、センパイがそう言うなら……もう、いいです。泣いても知りませんから」
 拗ねたように口を尖らせ、腹立ちまぎれに突き放してみせる。もう心配なんかしてやるものか。
「よく言う。泣いたのはそっちのほうだろ」
「な……っ」
 しかし、そんな態度も彼のデリカシィに欠けた指摘によって一瞬で崩れ、見る見るうちに顔が赤くなる。
 
「もう! センパイなんて大っ嫌い!」
 
 結局、涼月は両手で机を叩く勢いで立ち上がり、作業部屋を飛び出した。
 もう絶対に心配なんかしてやるもんか! 改めてそう思った。
 
 
                  §§§
 
 
 翌日の放課後、
 相坂純哉はいつものように図書室にいた。
 ただし、今日は閲覧席ではなく、カウンタ後ろの作業部屋のほう。昨日約束した通り、装備の手伝いをしているのだ。
 この学校の図書委員はふたりしかいない。
 即ち、
 
 ・委員長 鷺沢美汐(さぎさわ・みしお)
 ・副委員長 相坂純哉(あいさか・じゅんや)
 
 である。
 自動貸出機を導入しているので、この人数でもけっこうどうにかなるのだ。完全に性善説に立つなら、無人でも大丈夫なくらいだ。返却本はたまっていくが、翌日にまとめて処理すればいい。
 とは言え、さすがに新着図書が多いときは、ふたりでは大変だが。
 そして、その大変な時期が今である。
 
 ふたりは今、黙々と作業を進めていた。
 リストを確認しながらバーコードラベルを貼り付けていく。それが終わったら請求記号ラベルの出力と貼付だ。傍らには装備マニュアルが置かれているが、あまり使われることはない。ラベル類の貼付位置も、メディアや別冊解答といった付属資料の扱いも、もうほとんど頭に入っている。
「今回の新着、これでぜんぶだっけ?」
「残念。まだ半分よ。残りの半分は週明けに入ってくるわ」
 純哉の淡い希望を打ち砕く美汐の声はどこか楽しげだった。
 彼は嘆息ひとつ。でも、文句は言わない。投げ出すこともしない。黙々と仕事をこなす。基本的にさほど頭を使わずにできる作業がきらいではないのだ。
 と、そこで作業部屋のドアが勢いよく開いた。
 あまりにも勢いがよすぎて、上吊り方式のスライドドアが全開になった後、跳ね返って戻ってきたが、開けた張本人が再びぐっと押し返した。
「ここにいた! センパイ!」
 藤間涼月(ふじま・すずつき)という、非常に語呂の悪い名前の一年生だ。
「聞いてくださいよー、センパイ。今日も先輩の話が出たんです」
 涼月が純哉のもとまで歩み寄る。後ろでは支えを失ったドアがゆっくり閉まっていっていた。
「盛り上がったか?」
「んー、まぁ、そこそこ?」
 彼女の返事は歯切れが悪い。
 今の涼月は無責任な噂話を嫌悪している側だ。たぶん、とめはしなかったが、積極的に話に参加することもなかったというところだろう。
「それは重畳。……わざわざそれを言いにきたのか?」
 だとしたらなかなか趣味が悪い。
「そういうわけじゃないですけど……今ごろセンパイ、泣いてるかなと思って」
「なんで聞こえてきてもない陰口で泣くんだよ」
 泣いたのはお前だろ、とはさすがに言えなかった。昨日と同じ轍を踏むわけにはいかない。
「じゃあ、わけもなく落ち込んだりしてません?」
「してない」
 だんだん聞くに値しない話になりつつあったので、純哉はテキトーに聞き流しながら作業を再開した。手に取った資料とリストを照らし合わせ、また一枚バーコードを貼り付ける。
 一方、美汐も、我関せずとばかりに、やはり作業を進めていた。
「ま、まぁ……いちおー、悪いとは思ってるんですよ?」
 涼月は少しだけ顔を赤くしながら、言いにくそうに言葉を連ねる。昨日の情緒不安定な自分を思い出したかもしれない。
「というわけで、今度の日曜、デートしてあげます」
「いらない」
 だが、純哉の答えは即答に近いものだった。
「えー、でもわたし、友達との約束断ったばかりじゃないですかー」
「……」
 思わず絶句しつつも、純哉は心の中で「知るかっ」と吠えた。
 女は答えや解決よりも同意を求める生きものだと理解しているが、さすがにこれを同意しろというのはハードルが高い。というか、むりだ。
「いや、お前ね、何を勝手に――」
「あ、友達待たせてるんだった!」
 文句を言いかけた純哉の発音にかぶせて、涼月がはっとする。
「詳しいことは明日にでも。放課後またここにきますから。じゃー、失礼しまーす」
 そうして彼女は言いたいことだけを一方的に言うと、再びスライド式のドアを開けて出ていった。ゆっくりとドアが閉まり、ゴムの緩衝材がかすかな音を立てると、それを最後に部屋に静寂が戻る。
「なんだ、あいつ……」
 純哉はそれ以外の言葉を見つけられなかった。
 閉じたドアを見ながら呆然としていると、彼が見ている前で再びそれが開いた。半分も開いていない隙間から涼月が顔を覗かせる。
「日曜日、あけといてくださいね?」
 まるで念を押すように、ひと言。そして、消える。
 パフッ、とドアが閉まった。
「……」
 まぁ――と、純哉は思う。悪いと思っているのも、お詫びだというのも、まんざら嘘ではないのだろう。だからと言って、なぜにそんな面倒なことにつき合わねばならないのか。しかも、「デートしてあげます」ときた。上から目線この上ない。
 相手はあの藤間涼月。頭ひとつ抜けてかわいいと評判の新入生なのだが、『図書室の怖い番人』として図書室を根城にする自分にはどうにも不釣り合いだ。そんなのは目の前にいるハイスペック図書委員長殿、鷺沢美汐だけで十分だと思う。
 と、そこで美汐が口を開いた。
「残りの新着図書、前倒しで今週中に送ってもらうから」
「は?」
 一瞬何を言われたのかわからなかった。
「土日も装備よ。……よかったわね。断る理由ができたじゃない」
 美汐は作業をしながら淡々と言葉を連ねる。気のせいか彼女の周りには、ビュオオオォォォ、と氷雪舞う嵐が吹き荒れていた。
「……」
 純哉は思わず考え込んでしまう。
 どうしてこんな、進むも地獄退くも地獄の状態になっているのだろうか、と。
 
 
2017年2月21日公開

 


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