ある朝の居内さん 《ネコぽむ編》
 
 Pi Pi Pi Pi Pi …… ――
 目覚まし時計が耳障りな電子音を奏でる。
 居内加代子は覚醒しきらない頭のまま、手だけを伸ばしてそれを止めようとした。
 ぽむぽむ――
 しかし、いくら叩いてもけたたましい電子音は止まらない。
 それもそのはず。さっきから叩いているのは、枕元で寝ている居内家の飼い猫なのだから。
 因みに、三毛猫。名前は『V12』(ぶい・じゅーに)と言う。
 それは兎も角。
 加代子は致命的な間違いに気づかないまま猫を叩き続ける。
 ぽむぽむ――
 さすがに猫も堪らなくなって逃げた。ただし、寝ぼけ眼でちょっと座標を変えただけだ。のんびりした猫である。
 ぽむぽむ――
 しかし、それを追ってくる加代子の手。目覚まし時計が移動したことに疑問を持たないのだろうか。
 しばらくそんなことを繰り返した後、猫がやおら立ち上がった。
 そして、
 ぽむ――
 目覚ましを叩いた。
 電子音が鳴り止んだ。
 ついでに、げし、と加代子の頭も叩く。
「む……」
 彼女の口から小さなうめき声が漏れる。が、それだけだった。
 静かになった部屋の中で、ひとりと一匹は再び深い眠りに落ちた。
 今日は休日。
 加代子が、千秋那智との約束を思い出して飛び起きるのは、2時間ほど後のことである。
 
 
何か一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
コメントへのお返事は、後日、日記にて。