殲滅兵器(アニヒレータ)
 
「ねこパーク?」
 僕は思わず訊き返した。
「そう。あらゆるアトラクションが猫をモチーフにしていて、猫と遊べるコーナーもあるの。どこかの企業が巨費を投じて作ったらしいわ」
「へえ。なかなか酔狂な企業もあったものですね」
 いったいどこの企業だ――と考えた瞬間、頭の中にふたりの人間の顔が思い浮かんだ。ひとりは不良中年。もうひとりは妖怪勝負よ娘。安全装置(セーフティ)が働いたのか、どっちも黒い目線が入っていた。
「ま、いっか。経営母体がどこだろうと関係ないし」
 と、まぁ、そんな会話を経て司先輩と僕は、只今ねこパークのゲート前に並んでいる。列はゆっくりと前進中。すんなり入場できないほど人が多いのかと思ったら、何てことはない。入り口で女性客にネコミミ付きのヘアバンドを配っていた。また微妙なサービスを。
 やがてゲート前に辿り着く。
「いらっしゃいませ。ようこそ」
 係員の女の人は朗らかに挨拶をしてから、司先輩と僕の顔を見て――、
「どうぞ」
 僕にヘアバンドを差し出した。
「何で!?」
 それはおかしい。
 係の人は残念そうな顔をした後、渡す相手を司先輩に変更。先輩もまた残念そうな顔でそれを受け取った。意味がわからん。
 しっかし、まぁ、ネコミミヘアバンドとは。どこかのネズミの帽子じゃないんだからさ。小さい子しかつけないだろ。
「どう、那智くん。似合うかしら?」
「……」
 なぜか素直につけてる司先輩がいた。
 えっと、似合うか似合わないかで言えば、どえらく似合っています。似合いすぎてもの凄い破壊力です。
「こういうのをつけてると、“にゃちくん♪”とか言いたくなるわ」
「ぶっ……」
 そ、それはちょっと萌え死ねるかも……
「や、やっぱり似合わないかしら?」
 僕が黙っているものだから、司先輩も不安になったらしい。
「まあ、ほら、子ども向けのアイテムですから」
「それもそうね」
 先輩は納得して、周囲1kmは萌やし尽くせそうな殲滅兵器(ヘアバンド)を外した。
「じゃあ、那智くんにあげるわ」
 そして、それを僕に手渡す。
「なぜに僕?」
「よかったら家でつけて」
「いや、僕、そんな趣味ないですから……」
 とは言え、こうして手に持っていると、妙にチャレンジ精神を煽るものがあるな。先輩もこれに当てられたのだろうか。
「……」
 うぅむ、ものは試し。身体を張ったジョークってことで。
 僕はそれを頭に装着した。
「どうですか、先輩」
「っ!」
 あ、何か絶句してる。
「にゃあ?」
「ッ!?」
 司先輩はいきなり片手で鼻を押さえた。そして、空いたもう片方の掌を、ばっ、と僕に突きつける。
「ダメよ、那智くん。それ以上近づかないでっ」
「はい?」
 先輩がじりじりと下がっていく。
「……」
 なんか不評っぽい。
「えっと、じゃあ、外しますね」
「外しちゃダメ!」
 僕が頭に手をかけるや否や、司先輩が叫ぶ。
「? じゃあ、このままで――」
「それだとわたしが出血多量で死ぬわっ」
「よくわかりませんが、だったら外した方が……」
「ダメー!」
「……」
 どないせいちゅーねん。
 司先輩の内部で何が起こっているのかわからないけど、なにやらジレンマに襲われてるみたいだった。
 
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