テロリスト円先輩 
 
一夜が生活する邸の離れ――、
「じゃ〜ん」
 寝室として使っている隣の部屋から出てきた円。その姿はなぜかメイドの格好だった。
「いきなり来て隣の部屋貸せ言うから、何やまた寝にきたんかと思うたら、いったい何しとんねん」
 勉強机などが置かれた部屋で、座椅子に座って本を読んでいた一夜は、わずかに顔を上げて円を一瞥した後、呆れた様子で言った。再び本に目を落とす。
「いやあ、この前なっちのところに行ったら、司がメイドだ何だって騒いでてさ、何となく面白そうだから調達してきたのよ。……遠矢っち、どうよ?」
「知らん」
「ちょっと胸が開きすぎかなあって思うんだけどさ」
 胸元を引っ張ってみせる円。
「あっそ」
 くるりと背を向ける。
 回転までする多機能座椅子はこういうとき便利である。
「……見なさいよ」
 そんな一夜に円はむっとする。
「せっかく人がこんな格好してるのに、なんとも思わないわけ?」
 円は一夜にすり寄ると、後ろからその首に腕を巻きつけ、体を寄せた。
「そんな特殊な趣味あらへんわ」
「何か感想くらいあるでしょうが」
「……新手のテロ」
「どういう意味よっ」
 次の瞬間、ごつん、と一夜の後頭部に円のヘッドバッドが炸裂した。一夜が痛みにわずかに顔を歪めた。
「もういいわ。アンタに気の利いた感想を期待したアタシが間違ってた」
 諦めたようにそう言って円は一夜から離れた。
 やれやれ、と一夜がため息をついていると、頭から何かをかぶせられた。視界が真っ暗になる。引き剥がしてみると、それはさっきまで円が着ていた衣装だった。
「バスルーム貸して。シャワー浴びて少し寝るわ」
「勝手にし」
 答えながら一夜は手にした衣装を適当な感じで後ろに放り捨てた。その返事が終わるか終わらないかうちに、円は脱衣所の中に姿を消す。
 やれやれ。
 一夜はもう一度ため息を吐いた。
 
 
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