4.三日目・夜
 
 夕食準備中――、
「ところで先輩、カレーの腕は上がりましたか?」
「ええ、当然よ。任せて。お父さんや円にパワーアップしたって言われてるんだから」
「……」
「今度作ってあげるから期待していてね」
「は、はは、はははー……」
 この後には連日僕らの頭を悩ませている問題が待っているものの、とりあえずそれまでは楽しい。昼間は適度に自分の時間を持ちつつ、一緒に買い物にいったりしている。
 今は夕食の準備。
 棚から出された皿を僕が受け取って先輩に渡し、料理が盛りつけられて返ってきたら、それをテーブルに並べていく。それを効率よく繰り返して、次第にテーブルには人数分の夕食がそろっていく。
 って――
 ちょっと待て。僕が受け取ってって、いったい誰から受け取ってるんだ!?
 不可解な状況にようやく気がついて、僕は皿を渡してくる人物を見る。
「ゆ、ゆこりん先輩……」
 五十嵐優子先輩、愛称ゆこりん先輩がゆっくりとした動作ながら次々と棚から皿を取り出していた。
 あ、あまりにも自然に溶け込んでいて気づかんかった……
「せ、先輩、どうやってここに……?」
「か、鍵が、開いてたから……」
 開いてたら勝手に入るんかい!?
「いや、まあ、それはこっちが無用心だったということで、責任は引き受けておきましょう。……で、今日は何の用で?」
「えっと、千秋君が帰ってきたって聞いて、久しぶりだから顔を見にきたの。ダ、ダメ……だったかな?」
 そんな申し訳なさそうに聞かれたら、ダメなんて言いにくいよなぁ。
「い、いえ、気持ちは嬉しいです」
 できれば気持ちだけでよかったなぁなんて、余計なひと言など言えるはずもなく。
 ゆこりん先輩はほっとひと安心したようだった。
「よかったね、加代子ちゃん」
「へ? 加代子? ってことは、居内さん?」
 ゆこりん先輩の視線の先を見ると――、
「ッ!?」
 みんなが協力して夕食の準備をしている中、唯ひとり何もせずに席について待っている居内さんが一匹。
「……」
 ゆこりん先輩の問いかけに頷きもしない辺り、かなり真剣に食事を待っている様子だ。……いつからそんな腹ペコキャラになったんだ。
 そして、司先輩はというと、またしても邪魔が入り、こめかみに青筋なんか浮かべてかなりご立腹のようだった。
 勿論、この後のことは有耶無耶になった。
 
 
 
5.四日目・夜
 
 夕食後、僕と司先輩はソファに座り、テーブルを挟んで向かい合っていた。
「鍵は?」
「閉めました」
「インターホンは?」
「すでに電源を切りました」
 真剣な顔でひとつひとつ確認していく。
 まるでゲリラが作戦前に装備と弾薬を確認しているような雰囲気だけど、気持ち的には似たようなものだ。度重なる邪魔により計画(ミッション)は失敗続き、これ以上の遅延や失敗があってはこのままズルズルと機会を逸しかねない。
「大丈夫ね?」
「侵入者に対する防備は万全です」
 最終確認を終え、ふたりで頷き合う。
 では!
「先輩っ!」
「は、はいっ」
 が、次の瞬間――、
 ドンドンドンドンドンドン!
 玄関の扉が荒々しく乱打された。
「くぉら〜、千秋ー! インターホン鳴らないじゃないのっ。どういうことよー! いるんでしょう! 遊びにきたわよーっ」
 あの声は宮里晶(通称サトちゃん)。
 宮里は大音量で叫びながらも、ずっとドアを叩き続けている。恐ろしくしつこい。つーか、酔ってんじゃないだろうな?
「出てこないなら、蹴破るまでよっ!」
 あー、うん。それはちょっと勘弁。うちのドア古いからゾウのキックに耐えられないし。あと、ついでに近所迷惑だから。
 結局、鍵をかけても無駄なわけね。
 仕方なく僕は立ち上がって赤いゾウの女を迎え入れることにした。
 
 
 
6.五日目・夜
 
 いつものように夕食をすませ、ふたりでお茶をすする。
「今日は誰が来るのかしら?」
「誰でしょうねえ」
 なんかもう諦めムードが漂っている。
 今日は鍵をかけるとか、インターホンを切っておくとか、そんな小細工はしていない。やるだけ無駄だと悟ったからだ。
 ピンポーン――
 思った通り玄関チャイムが鳴った。
 僕はソファから立ち上がり、インターホンを手に取った。
「はい」
『ついに帰ってきたそうね! 勝負よ、千秋那智っ!』
 お前かっ!?
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コメントへのお返事は、後日、日記にて。