05.姫崎音子
 
 姫崎音子は、三年の教室が並ぶ廊下を歩いていると、前方に何やら野次馬が集まってい
るのを見つけた。
 人並みに好奇心旺盛な音子は吸い寄せられるようにそこへ向かった。
 そこで見たのは、学園では知らないものはいないと言われる美少女、片瀬司とよその制
服を着た中学生らしい女の子が言い争う姿だった。
(あ、あれは……)
 そして、傍らには神に見放された挙げ句、現実逃避して他人事のようにそれを見守って
いる千秋那智の姿もあった。
 いったい何が原因でこんな事になっているのやら……
 と、次の瞬間、片瀬司がひときわ大きな声を上げた。
「わたしと那智くんはつき合ってるの。夏休みの前から、六月からずっとつき合ってるの
よ。さあ、これで文句はないでしょ!」
 一瞬の静寂の後、辺りに波紋のように衝撃が広がる。「やっぱり」、「なんであんな奴
と……」など、反応は様々だった。
(そんな……。あの千秋那智が……!)
 そして、それは音子も例外ではなかった。
「きゃっ」
 突然、何かに突き飛ばされ、弾かれた。
 何かと思ったら、駆け出した片瀬司だった。彼女はこの場から去るために駆け出したら
しい。そして、ぼうっとしていた音子にぶつかっていったのだ。
 続けて千秋那智もその後を追って目の前を通り過ぎていった。
 音子は、廊下の先で遠く、小さくなっていく千秋那智の背を見送った。
「そう。あのふたり、そんな関係だったの……」
 小さくつぶやく。
 ………。
 ………。
 ………。
「ま、でも、私の復讐には関係ありませんわ。今に見てらっしゃい、千秋那智!」
 改めて決意を固め、拳を握る。
 意外と自分の気持ちには鈍感な復讐者(アベンジャー)、音子ちゃんだった。
 
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