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I'll have Sherbet! |
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4(1).「少し……」 |
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その日の朝はいつもと違っていた。 佐伯さんがドアを蹴破らん勢いで部屋に飛び込んできたのを、僕はまどろみの中で知覚した。 「弓月くん、起きて起きてっ」 彼女は乱暴に僕の体を揺さぶった。 「……何ですか、騒々しい」 「えっとね、時間がすごいことになってるのっ」 「……」 僕は佐伯さんをゆっくりと押しのけ、上体を起こした。ベッドの宮に置いた目覚まし時計を手に取る。 「……あぁ」 確かにいつもよりずいぶんと遅い時間だった。 「あぁ、じゃなくてッ。何でそんなに呑気なのっ」 「無駄に慌てても仕方ないと思ってるだけです。ちゃんと急ぎますよ」 体にからむかけ布団を剥ぎ取り、足をベッドから下ろした。 「じゃあ、朝ごはんは簡単なものになるけど、ちゃんと作っておくから」 佐伯さんは小走りに部屋の出入り口へと駆けていった。 が。 その足がドアの前で止まる。そして、再び振り返った。 「ごめんね、弓月くん」 「何がですか?」 「その、寝坊しちゃったこと……」 あぁ、そのことか。 「僕もすっかり油断してましたから。佐伯さんだけが悪いわけじゃないです」 僕自身、昨夜遅くまで起きていたこともあるし、ここのところ佐伯さん任せになっていたことも原因だろう。新生活に慣れてきて、気が緩んでいるのかもしれない。 「それよりも朝食をお願いします。着替えたらすぐに行きますので」 「あ、うん。わかった」 佐伯さんは少し心を軽くした様子で、今度こそ部屋を出て行った。 僕も手早く着替えをすませ、自室からリビングへと出た。キッチンでは佐伯さんが何やら作っているようだったが、僕は先に洗面所へ向かった。 目覚めてからあまり時間をかけずに身体を動かしはじめたから、少し頭がふらふらしていた。その頭を冷たい水でむりやり稼動状態へと持っていく。 そうしてから僕はリビングへと戻った。 「ごめーん、弓月くん。やっぱりたいしたものできなかった……」 ダイニングのテーブルに用意されていたものは、昨日たまたま買っていた調理パン数種類と、生ハムとレタスのサラダ。それにポタージュスープだった。ポタージュはお湯を注いで出来上がりというインスタントのものではなくて、鍋に入れて火をかけるレトルトタイプのものだ。 「充分ですよ。いただきましょう」 「あ、バタバタしてたから、まだ窓も開けてなかった」 さぁ今から食べようかという段になって、佐伯さんがリビングの全面窓に向かって駆け出した。 確かに室内の空気が澱んでいるように感じる。カーテンを開けただけで、窓までは開けていなかったらしい。しかし、だからと言ってこんな逼迫した状況のときにやることはないだろうと思うのだが。 佐伯さんが窓を開けた。 途端に吹き込む朝の風。 「きゃっ」 その風は彼女の短いスカートを巻き上げながら、室内へと流れた。咄嗟に裾を押さえる佐伯さん。その動きは賞賛に値する速さだった。 ばっ、と彼女は弾かれたようにこちらに振り返った。 目が合う。 「……見た?」 「……」 「……」 僕は言葉を探した。 「すみません。少し……」 思えば問われてすぐに嘘で返せなかった時点で、僕には正直に答えて謝るという選択肢しか残されていなかったと言える。 なお、佐伯さんはまだいつもの黒いストッキングを穿いていない。 「……」 「……」 おもむろに佐伯さんが、がっくりと床に崩れ落ちた。どうやらかなりショックを受けているようだった。 「もう少し大人っぽいの穿いとけばよかった……」 「……」 ……そっちなのか。 だいたいそんなこと言ってたら、嘆き崩れてるその座り方だって、大胆に太ももが露わになって十分に艶かしいのだが。 「あの、佐伯さん? あまり悠長なことをやってる時間はないはずですが……」 「あ、そうだったッ」 はっと気づいて、飛び跳ねるようにして立ち上がる佐伯さん。再びダイニングにパタパタと戻ってきて、ようやくテーブルに着いた。 いつもより遅い朝食。 急いでいることもあって、会話はなかった。 が、不意に。 「あ」 何かを思い出したように、佐伯さんが声を上げた。 「お弁当どうしよう?」 「さすがにむりでしょう」 改めて壁の掛け時計を見る。このまま朝食を終えてすぐに家を出れば、走らなくとも学校には間に合うだろうというような時間だ。彼女とは少し時間をずらして登校する僕は、多少走ることになりそうだが。 弁当を作っている時間などないのは一目瞭然だ。 「今日は学食ですね。たまにはいいでしょう」 「学食かぁ。わたし、学食はちょくちょく行ってるけど、まだお昼は食べたことないなぁ」 佐伯さんはポタージュの入ったマグカップを両手で包み込むようにして持ちながら、未知の領域に思いを馳せていた。 「そっか、学食かぁ」 そして、もう一度、何かに期待するような調子で繰り返した。 //続く 2008年5月15日公開 |
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