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I'll have Sherbet! |
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クリスマスSS 「来年は……」と僕は思いを馳せた |
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12月24日―― 「ただいま」 と、外から帰ってきて、僕がリビングのドアを開けると。 「Have a holy jolly Christmas!」 そこに両手を上げて全身全力でクリスマスを祝う、肩出しヘソ出しミニスカートのサンタクロースがいた。 「……」 佐伯さんだ。 まぁ、何かやるだろうとは思っていたけど。 もう少し詳しく言うと、白いファーで縁どられたストラップレスの赤いトップスに、やはり裾にファーのついた赤いミニスカート姿だ。 赤と白。 クリスマスカラーというか、サンタカラーというか。 とりあえず僕は部屋に戻るため、佐伯さんに背を向けた。 「ちょっ、無視!?」 叫ぶ佐伯さん。 まぁ、少しくらいはかまってやった方がいいのかもしれない。刺激が強いから、あまり長く見ていたくないのだが。 僕はため息をひとつ吐いてから振り返った。 「何をやってるんですか、君は」 「クリスマスだからサンタクロース!」 非常にまっとう、且つ、微笑ましい連想だと思う。しかし、それがなぜここまで不健全なかたちで具現化するのであろうか。 「それだったら白い髭でもつけて、一般的なサンタクロースの扮装でもすればいいでしょう」 「それだとぜんぜん面白くないんですけど」 佐伯さんは頬を膨らませて抗議する。 彼女が求める面白さのベクトルは、通常とはやや異なるから始末が悪い。 「いったいどこで手に入れてきたんですか、そんなもの」 「うん。学校のアイドル研で借りてきた」 「……」 そんな研究会があったのか。水の森は全国的に有名な私立高校なのに。そして、サンタの衣装がアイドル研の領域だったとは。いろんな意味で衝撃的だ。 「だから、無視されるとサムいんですけど」 「まぁ、確かに寒そうです」 僕に隙があったのか、口をついて出たのはそんな言葉だった。 「そういう意味じゃないんだけど。うん、ちょっと寒い、かな」 佐伯さんは苦笑しつつ自分の姿を改めて見下ろし、衣装の胸元を引っ張った。こちらから胸のふくらみが見え、僕は慌てて顔を背けた。 「と、兎に角、そんなバカなことをしてないで。出かけるんじゃないんですか。さっさと用意してください」 「そだったね。すぐに着替えてくる。……あ、因みにね――」 と、部屋に戻りかけた彼女は、言葉をつけ加える。 「これ着たら、その写真を撮ってあげるってのが、借りる交換条件なの」 「着なかったことにして、服だけ返しなさい」 そんなもの人に見せなくてよろしい。 さて、30分後――、 僕らはそれぞれ用意をすませて、家を出た。尤も、支度に手間がかかったのは、着替える必要があった佐伯さんだけなのだが。 今の彼女は、白いコートに赤いチェックのスカート。足にはロングブーツを履いていた。対する僕は、さっき外から帰ってきたときの格好のまま。羽織っている黒いコートなんて学校指定のものだ。幸い水の森のコートは校章が入っているわけでもなく、デザインのセンスもいい(カラーバリエーションは3色ある)。どこに着ていっても問題はないので、僕のようないいかげんな人間には非常に便利なアイテムだ。 夕刻。 外はもう薄暗くなりはじめていた。 「予定してたより遅いですね。君がおかしなことをしてたせいです」 「……反省。夜にすればよかったね」 「夜にされても困ります」 僕たちは駅の方に向かって歩く。 「こっちは茶化されながらパーティを抜けてきたんですよ」 僕はさっきまでいつものメンバー――滝沢、矢神、宝龍さん、雀さんたちとクリスマスパーティをしていた。前々から佐伯さんと予定があるから途中で抜けると言っていたのだが、やはり今日になって改めて冷やかされてしまった。 「うん。こっちも似たようなもの」 佐伯さんは笑いながら言った。 彼女の方でも友達同士でパーティがあったらしい。 「弓月くんとホテルに行くって言ったら、もう大騒ぎで」 「……は?」 思わず足が止まりそうになった。 実は佐伯さんの言ったことは間違ってはいない。決定的に情報が足りていないが。 これから僕らが行くのは、一ノ宮の駅前にあるシティホテルだ。その外壁を飾るクリスマス仕様の電飾を見て、ついでにそのまま展望デッキに上がる予定だ。非常に高校生らしいツアーである。 「佐伯さん、その誤解はちゃんと解いてきたんでしょうね?」 「ううん。面白いからそのままにしといた」 「……僕としては何がどう面白いのかさっぱりなんですけどね。後でお友達に電話して、きちんと説明しておいてください。広がる噂によっては、僕たちが学校にいられなくなりますから」 「う゛。それは不味いかも……」 ようやく気づいたらしい。もう少し広い視野を持って欲しいものだ。 車道を走る車は、昼間よりは多めだ。中途半端な暗さのせいか、ヘッドライトを点けていたり点けていなかったり、まちまちではある。 少し歩いて、また佐伯さんが口を開いた。 「ね、寒くない?」 「そうですか? 僕はそれほど」 今年は暖冬なのだろう、12月にしては破格の暖かさだ。 「もうっ。そういうときは『大丈夫?』とか言って、コートをかけたりするのが普通でしょ!?」 が、そんな僕の返事を、佐伯さんはお気に召さなかったらしい。 「僕にそんな気遣いを期待されてもね。それに、さすがにこのコートを脱いだら、僕も寒いです」 「……もういい。実力行使あるのみ」 そう言うが早く、彼女は正面から僕に抱きついてきた。 「な、何をやってるんですか!?」 「いいじゃない。こうすればあったかいよ?」 佐伯さんは僕に抱きついたまま、ほぼ真下から無邪気な笑顔で見上げてくる。体のほとんどが触れ合っていた。幸いにして冬の厚着のせいで、彼女の女の子らしいやわらかさはあまり感じなかった。 「そうだとしても、これでは歩けません」 僕は努めてフラットな口調で問題点を述べた。人通りが少ないとは言え、往来で足を止めて何をやっているのだろうな。 「ぐっとくる?」 「きません。……ほら、離れてください。早く行きましょう」 佐伯さんの肩に触れ、やや強引に押して離れさせる。何となく顔を見られたくなくて、彼女を待たずに僕は歩き出した。 「うーん。頑張ってるんだけどなぁ。特にさっきのサンタとか」 「そんなところで頑張ってどうするんですか……」 毎度のことながら、変なところに力を入れる人だ。 「弓月くんが、こう、押し倒したくなるかなぁ、とか?」 「何をバカなことを。それに僕は君のお父さんと約束してるんですよ。大切にお預かりすると」 本当に何を考えているのだろう。彼女の思考に比べたら、スペインの宗教裁判の方がまだ理路整然としていると言える。 「預かるだけじゃなくて、そのままもらってよ」 「考えておきます」 「あ、考えてくれるんだ」 「……」 「……」 「考えるだけなら。どんな結論が出るかは知りませんが」 とりあえずそれが僕の精一杯だった。 今、非常に歩く速度を上げたい気分だが、そんな隙を見せたらよけいに泥沼にはまりそうだ。 「ね、来年のクリスマスも一緒にいられるかな?」 佐伯さんはまだ見ぬ一年後に思いを馳せるように訊いてくる。気の早いことだ。少々意地の悪いことをしたくなる。 「さて、どうでしょうね」 「え、どうして?」 「僕は来年、3年です。年が明けたら大学受験が待ってる身ですよ。そんな余裕があるとは思えません」 「ん? それだと再来年はわたしが受験だから、早くて3年後ってこと?」 「そうなりますね」 「そっか……」 しゅんと沈む佐伯さん。浮き沈みが激しい。長く引っ張ることもないので、この辺りでいいだろう。 「ま、一日くらいどうにかしますよ」 「ほんと!?」 隣で佐伯さんが僕を見た。 「その代わり、再来年は君が時間をつくってください。僕のために」 「弓月くんのために?」 「……何度も言わせないでください」 「うん。わかった」 きっとそれは二重の意味での了解だったのだろう。 そうこうしているうちに、目の前には学園都市の駅が見えてきた。 さて、来年はどんなクリスマスを過ごしているだろうか。少なくとも佐伯さんが隣にいるのは間違いないだろうが。 2008年12月22日公開 |
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