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I'll have Sherbet! |
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「クリスマスは当然デートじゃない?」と彼女は言った |
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クリスマスの足音が聞こえてきた12月のある日のこと。 その日の帰宅順は、僕が先で、佐伯さんが後だった。 僕がテーブルの上に新聞の夕刊を広げ、エアコンの効きはじめたリビングでくつろいでいるときに彼女は帰ってきた。手には書店の袋。 「本屋に寄ってたんですか?」 それに気づいた僕は、聞いてみる。別に何を買ったか知りたいわけではなく、ただ単に話の種に、だ。 「うん。ほら、クリスマスは当然デートじゃない?」 「いや、いつ決まったか知りませんけどね」 「だから、参考に買ってきたー」 袋から出して僕に手渡してくれたのは、薄い雑誌だった。『○○Walker』と題された有名な情報誌。表紙に一番大きな字で書かれているの今号のメインとなる特集なのだろう。そこには『クリスマス間近、ラブホテル特集』とあった。 「……」 いいのか、こんなものを堂々と載せて。 「まさか君はこの怪しげな特集を目当てに買ったわけではないんでしょう?」 「そうだけど?」 希望を込めて尋ねたのだが、あっさりと肯定されてしまった。 「貸して」 佐伯さんは僕の手から情報誌を取り上げ、それを広げながら向かいに座った。まだ制服のまま。コートと制鞄はフローリングの上に放り出す。 「見て見て。バスルームってマジックミラーで、外から見えちゃうんだって」 「知りませんよ、そんなこと」 「コスチュームの貸し出し! クリスマスだしミニスカサンタとかありますかっ」 「……」 なんで息を荒くしているんだろうな。オッサンか、君は。 「あれ? 弓月くん、どうしたの?」 呆れて頭を抱えている僕に気づき、佐伯さんが問う。 「どうして君はそうなんだろうと思いまして」 「むしろ弓月くんこそどうしてそうなんだろうと、わたしは聞きたい」 すかさず切り返された。 「自慢じゃないけど、わたしは平均以上にはかわいいと思う」 控え目な表現だな。僕に言わせれば、最上級にかわいいと思うのだが。 「それなのに、一緒に暮らしていて押し倒そうとか思わない、フツー?」 「思う思わない以前に、それは普通ではありません」 僕を何だと思っているんだ。 「着替えを覗こうとか、お風呂を覗こうとかは?」 「それは変質者の仕事です」 むー、と僕を睨む佐伯さん。 対して僕は、脱力して座イスの背もたれに体重を預けた。 「押し倒す云々は置いておくとして、」 そして、覗きは論外として――そう前置きをしてから続ける。 「真面目な話、その辺りのことは僕の人生経験の少なさが原因でしょうね」 「どういうこと?」 「要するに性行為というものを、どう位置づけていいかわからないわけです」 はっきりと言う。 「子どもを授かるための神聖な儀式。愛情を確かめるためのコミュニケーション。もっと気楽に、快楽を得るための行為。他にもいろんな考え方があると思いますが、僕にはどれが正しいのかわかりません」 当然だ。そんなことがわかるほど人生経験を積んでいないのだから。 語り終えて、ふと佐伯さんを見ると、 「せ、性行為って……」 彼女は顔を赤くしていた。 「そこで恥ずかしがられると、僕の立場がないんですけどね」 いきなり梯子を外すかよ。 「だって、はっきり言うんだもん……。そ、そっか。じゃあ、クリスマスのデートはそういうのはなしの方向で」 「遊びに出かけるのは決まりなわけですね」 「当然」 佐伯さんは言い切る。 「それでぇろいことをするのが今のクリスマスらしいよ?」 「君は俗世間に毒されすぎです」 まぁ、そういう風潮だからこそ、あんな特集がまかり通るのだろうが。それにしても、佐伯さんはこの手の話題にオープンなのかそうでないのか、さっぱりわからないな。 僕はテーブルの上に広げたままになっている情報誌を自分のほうに向け、パラパラとページをめくってみた。 「興味ある?」 「ありますよ。と言っても、このメインの特集ではありませんが」 尤も、それにだって興味がないわけではない。多少好奇心は掻き立てられるし、男としてそういう知識もどこかにとどめておくべきなのかなとも思う。アクセスは、15番出口を出て東へ2分? 「まぁ、クリスマスの参考に、ね」 いわゆるデートスポットのページへと移る。 「ねぇ、クリスマスってなんかわくわくするよね」 向かいで佐伯さんが、両肘をテーブルにつき、掌の上に顎を乗せた構造で言う。 「人間は年末年始にテンションが高くなる生きものだという話もありますよ。君の場合は台風接近的なノリもありそうですが」 「失礼な」 彼女は頬をふくらませる。 「そう言えば佐伯さんは、去年のクリスマスはアメリカでしたっけ?」 「うん。家族で七面鳥食べた」 それはまたアメリカ的な過ごし方だ。郷に入りては郷に従え、だろうか。 「じゃあ、それに比べたら今年はずいぶん寂しいわけですね」 「かもね。でも、もうクリスマスは家族でって年でもないし、どちらかというと好きな人と……ぁ」 佐伯さんは急に言葉を切り、小さな声を上げた。 「そっか。そういうことか」 「何がですか?」 「わかっちゃった。なんでこんなにわくわくするか」 彼女は笑顔で真っ直ぐ僕の顔を見つめ返してくる。 言外に、 わかるでしょう? と。 「……」 わかる。わからないはずがない。 なぜなら、佐伯さんと同じ気持ちが、僕の中にも確かにあるのだから。 「……まぁ、いいんじゃないですか。自分を知ることは大切なことですから」 しかし、それを認めるのは彼女に弱みを見せるようで、僕はどうにかそれだけを言って、情報誌に目を落とした。 2009年12月20日公開 |
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