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I'll have Sherbet! |
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高校二年の夏休みが明け、九月ももう終わりにさしかかろうとしていた。 でも、まだ気温は高くて、連日夏日が続いている。学校の制服が夏服なのはもちろんのこと、わたしは家でも夏と変わらない恰好をしている。Tシャツとかタンクトップとか。 なので、 「……着ちゃった」 水着を着てみた。 ピンクのビキニ。パレオ付き。 その姿でリビングに出ていけば、わたしを見た弓月くんが「うぐっ」と喉を詰まらせた。 「どう?」 パレオの端を指でつまんでくるりと回れば、彼は赤くなりながら顔を背ける。それもそのはず。パレオの下のボトムは面積小さめ、バックは1/2カットくらいの、なかなかに大胆なデザインをしているのだから。 「時期も場所もおかしいです。すぐに着替えてきなさい」 ハウス と言わんばかりに指さすのは、わたしの部屋のドア。 わたしはテーブルを回り込み、顔を背けた弓月くんの前に回って、女の子座りでぺたりと座った。両手を床につけて前かがみになり、彼の顔を覗き込む。ついでにさり気なく胸を強調してみたり。 「今年はプールにつれていってくれなかった」 「それはですね……」 弓月くんは視線を逸らす。というか、落とす。胸が気になってしまうらしい。トップスも大きく胸が開いていて、ボトム同様なかなかきわどいデザインをしている。わたしはそこに視線をはっきりと感じて、くすぐったいような感覚に身をよじりそうになる。 因みに、言い淀んでいるのは反論の余地がないからではなく、単に目のやり場に困って頭が回っていないからだ。 「将来を誓った女の子をほったらかしって、どういうことですか」 「僕としてはその将来のためなんですけどね」 わたしが半目で文句を言えば、彼はようやく反論を口にした。 弓月くんは今、譲り受けた閉店中のカフェを、いつか自分の手で再開させるため修行中の身だ。親しくしている馴染みの珈琲店で、表向きはアルバイトと称していろいろと技術を学んでいるらしい。おかげで夏休み中は、ほとんど日中は家にいなくて、たまの休みもさすがにデートしようとは言いにくかった。 理性では理解しているつもり。弓月くんが毎日がんばっていることも、それが将来のためであることも。 でも、感情が納得していない。 「せっかく準備して楽しみにしてたのに」 「準備と言っても水着を買っただけでしょうに。それが無駄になってしまったのは悪いと――」 「その台詞は世の女の子を敵に回した!」 よろしい、ならば戦争だ。それも夜戦。 むっときたわたしは彼の膝の上に乗り、向かい合わせになった。 「何をするんですか」 「女の子がどれだけ努力しているか、体で確かめてもらいます」 まずは触れるだけのキス。 それから何度も啄むようなそれへ。 「佐伯さん、いったい何を――」 「慌てないの」 せっかくなので気持ちも盛り上げないと。 キスはさらに激しく。さすがの弓月くんも水着姿で迫られればその気になってきたようで、お互いを求め合い、奪い合う。 「だから、何がしたいんですか、君は」 「ウェスト。夏に水着になると思って、春過ぎからけっこうがんばってたんだから。ほら、触ってみて」 「いや、君はもともと細いし、それは、まぁ、知っていますから」 せっかく誘ってあげてるのに、弓月くんはぜんぜん乗ってこない。 「ダメ。ちゃんと触って確かめてみて」 「……わかりました。少しだけですよ」 両手を弓月くんの首の後ろに回しつつお願いをして、ようやく彼はおそるおそる手を伸ばしてきた。 触れる。 「んっ」 少しくすぐったくて、噛みしめた口から声がもれた。 「がんばった成果。細いでしょ?」 「まぁ、確かに」 そのまま彼に触れてもらいながら、キス。 さっきよりぞくぞくする。 もちろん、これだけで終わるつもりなんかなくて。 「でね、ヒップはちょっと小さめ、かな」 「……」 「……確かめてみて」 まっすぐに目を見ながら言えば、彼はウェストを撫でていた手をゆっくりと下ろした。……ほら、もうわたしのペース。 彼の両手が、パレオ越しにお尻に触れる。 「もっとよくわかる確かめ方があると思うなー」 「……こう、ですか?」 今度は手をパレオの下に滑り込ませた。 「あ、ん……」 思わず嬌声がもれてしまう。 何せ、先にも説明した通り、水着のボトムのバックは1/2カット、ヒップにキュッとなっているので、ほとんど直接触れられているようなものだ。 自分の声がちょっと恥ずかしくて、誤魔化すように唇を重ねる。 「んっ……あふ、んぅ……」 まるでじゃれ合うようなキス。 間、弓月くんの手はたどたどしくも、わたしのお尻を撫でてみたり掴んでみたり。 (これ、ちょっといいかも……) 新しい感じに気持ちが昂ぶってくる。 「次は、バスト」 さんざんじゃれ合いを楽しんだ後、わたしは切り出す。 「自慢じゃないけど、胸はあるほうです」 「それもわりと知ってるんですけどね」 弓月くんは大きく開いたわたしの胸元にちらりと目をやりつつも、ここで一度、理性のブレーキ。 でも、大丈夫。今の彼はわたしに逆らえない。 「弓月くんが知ってるときよりも変わってるかも。ほら、確かめてみて。もちろん、よくわかるやり方で」 「……」 やがて彼の手はゆっくりとわたしの胸へ。 それもちゃんと水着のブラの中。 「んんっ」 直接触れられ、思わず声が出てしまう。 弓月くんはすぐにブラの中に潜り込ませた手で、そのふくらみを弄びはじめる。 「んっ……は、んぅ……」 気持ちが昂ぶっていたこともあって、単なるくすぐったさではない、もっと性的(セクシャル)な刺激がわたしを襲う。 と、ふいに外気が体に触れるのを感じて、 「やぁん、もう……」 ブラがずり上がって、胸の片方が、ぽろり、とか、ぷるん、といった感じにこぼれ出ていた。 「乱暴なんだから」 「見て確かめるのはダメなんですか?」 「だーめ。恥ずかしいから」 見せてあげないとばかりに、わたしは弓月くんにしがみついて唇を奪った。 キスをしながら彼は、まるでそうしてくださいとでも言うように主張しているわたしの胸の先にいたずらをしてくる。人差し指と親指ではさんでこすり合わせてみたり、指で弾いてみたり。そうかと思えば、さわさわとくすぐるだけだったり。 「ん、んぅ……あっ……や、はぁん……」 刺激されるたびにキスはさらに激しくなって、合間合間で息つぎとも喘ぎ声ともつかないものが、わたしの口からもれる。 最近は余裕も出てきて、最初のころのようにわけがわからなくなるほど反応したりはしないけれど、それでもやっぱりここがいちばん弱い。 だって、初めて彼に触れられたところだから。 だって、初めて彼に意地悪をされたところだから。 そんな初めての記憶も重なって、こうして胸の先をいじめてもらいながらキスをしていると、頭の芯が痺れてくるよう。体も熱くなってきて、ヘンになりそうになる。 少しずつ、少しずつ、愛撫は優しいものになって、キスもライトなものになっていって――やがてどちらからともなく唇を離した。 わたしは顔を紅潮させたまま、切なくため息をこぼす。 スキンシップはおしまい。 ちょっと残念。 でも、それ以上に愛されているという実感を、まさしく体で感じている。 「ね、夏は終わったけど、ほら、ナントカっていう室内プールがあるじゃない? 今度そこ行こっか?」 わたしは乱れたブラを整えながら聞いてみる。 確か埠頭のほうに室内プールの大きなレジャー施設があったはず。あそこなら夏が終わっても関係ない。中は常夏の世界なのだから。 「まぁ、時間があれば、それもいいですけどね。……君、まさかその水着でいく気ですか?」 「もちろん」 もちろん、本当はそのつもりはないけれど。 「いや、さすがにそれはマズいでしょう」 「えー、どうして? せっかく買ったのに。もったいない」 わたしは腰を揺すり、飛び跳ねて不満を体で表現する。 「外で着るのがダメなら、じゃあ、どうしたらいい?」 「……」 弓月くんはわずかに逡巡。 「どうもしなくていいです。もったいないのは確かですが、そのままお蔵入りにしておきましょう」 でも、何かを振り切るようにそう言い切る。 「むー」 わかってるくせに。わたしが何を言いたいか。わたしが何を言ってほしいか。 それなのに弓月くんはそれをくれない。 「じゃあ、家でならいい?」 仕方がないので、こちらから切り出す。 当然わかっていたから、彼は慌てず、でも、言いにくそうに渋々うなずく。 「まぁ、君がそれで満足するなら、そのへんが妥協点でしょうね」 「ん。じゃあ、それで」 一方、わたしは最大の譲歩を引き出せて、おおいに満足だった。 今度これを着たとき、ただ着ただけで終わると思っているのだろうか? たぶん思ってないよね。 わたしもそのつもりはない。 (水着プレイげっと?) 心の中でほくそ笑む。 2014年10月23日公開 |
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